それでは、5回シリーズの第1回です。
イントロダクションとして、同書の目的と結論を、筆者の記述を参考にして紹介します。
加えて、2つの政策課題についての報告を紹介します。

本書は、「経済成長率「「労働生産性」「子どもの貧困率」「自殺率」などの重要な社会指標に対して、子育て支援等のさまざまな社会保障政策がどのように影響するかを、統計的に分析。
その結果に基づいて「子育て支援が日本を救う」と結論づけている。
すなわち、「これからの日本を救うのは、保育サービスを中心とした子育て支援である。」と。

いきなりの断定ですが、これだけでは意味不明です。
「日本を救う」というが、「日本がなぜ、どうして救われなければいけないのか?」。
「何から救われなければいけないのか?」。
その回答は、<あとがき>にあったので、引用しました。

子育て支援が、何から日本を救うのか

<短期>
・労働生産性の低さから救う = 労働生産性を高める
・急激な少子化から救う = 出生率を高める
・自殺率の高さから救う = 自殺率を下げる
・子どもの貧困率の高さから救う = 子どもの貧困を減らす

<長期>
・財政難から救う = 財政余裕を増やす
・格差の固定化から救う = 貧困の親子間連鎖を減らす
・社会保障の非効率性から救う= 社会保障の効率性を高める

「救う」という表現がどうもしっくりきません。
まあ、入り口でどうこう言っていても致し方ないので、前に進みましょう。
こうした、日本の未来を選択する有権者、政策決定過程に深く関わる政治家・官僚が行う政策検討を、客観的データに依拠して検討することを提案した。
これが本書というわけです。

財政健全化主義による子育て支援政策の経済政策論への展開

不思議なのは、書のタイトルからは、「子育て支援」政策提案書であるようなこと。
財政難を日本社会が抱える重大な根本的課題としており、その改善のためにまず「労働生産性」の向上が必須とし、経済政策論であるかのような方針をまず明らかにしているのです。

「子育て支援」のための経済政策論ではなく、経済成長に有効な手段を広範に求めると、「子育て支援策」が最も有効と評価できた。
その根拠が、「子育て支援策」に関するデータ分析から導き出された。
そう理解すべき書である、と思います。

本質的には、社会保障・社会福祉政策課題である「子育て」支援も、財政難を理由として、望ましい政策を展開することができない。
故に、経済成長に有効な手立てをまず講じることが、最優先課題となる。
そう読み替えるべき、となるのです。

その理解から始めるべきと判断したのは、以下の循環論法を掲げているからです。

日本社会が抱える重大な問題として挙げるべきは「財政難」
その財政難により、「税・社会保険料収入のほぼすべてを社会保障支出だけで使い果たしてしまい」、政府予算において、抑制を余儀なくされるのが「社会保障」。
従い、社会保障政策を議論するには、「財政健全化」が必須。

そして、こう続きます。
「財政健全化」には「労働生産性」向上が必須
「労働生産性」を高めるには、女性就労を支援し、「女性就労比率」を向上させることが必須
「女性就労比率」を高めるには、「保育サービス」向上が必須
と繋がり、
「保育サービス」を高めるには、「財政健全化」が必須
と戻ってくるわけです。

財源が不足しているから、全世代型社会保障政策の議論はこうなります。
高齢者の受益分の削減、すなわち負担増と、現役世代の負担の抑制または削減に集約される。
そこで「財政健全化」が先行して、あるいは並行して行われるべき。
柴田氏は、真面目に、その財政健全化に取り組んだ上での社会保障政策の拡充を提起しているのです。
常々行われている、常に堂々巡りの議論ですが。
但し、従来と少し違うのが、統計データを用いて主張していることです。

そう理解すべきでしょうが、「財政健全化」イコール「増税」主義と簡単に認められるか。これが問題になります。
それは後回しにして、取り組み可能な、あるいは、取り組むべき課題として上記の循環で掲げられた、<労働生産性>と<女性就労比率>の向上課題。
この課題について、本書の2つの章を概括してみました。

労働生産性を高めるためには、
・女性の労働を促す。
・保育サービス・失業給付・高等教育支援・起業支援を拡充する。
・労働時間の短縮を促す。
・個人所得税・社会保険料の累進性を強化する。
・高齢化を抑制する。
これらの対策が有効。
関連する統計データ分析に基づき、そのように結論付けています。
最後の「高齢化抑制」は、出生率を高める政策が必要になります。

分析に用いられたデータ類を整理しました。
・女性労働力率、保育サービス支出、男性失業率、失業給付支出、労働時間。
・公的高等教育支出、起業支援支出、個人所得税率、社会保険料率、老年人口比率など。
それぞれ「労働生産性の成長率」に与えた影響を、<一階階差GMM推定>という分析手法を用いて統計的に検証した、としています。

女性の労働参加を促すために有効な対策は、以下が挙げられています。
・公教育・産休育休・保育サービスを拡充する。
・女性の労働移民を良い多く受け入れる。
など。
それらは、「男性多数」「日本人多数」の職場・労働市場において「人材の多様化」をもたらす。
その職場や労働市場全体の生産性を高めると期待できる。
こう導いています。

その結論の前提としてあるのは、後述の「人材の多様性」への対応です。
しかし、まず先行すべきは性差の撲滅すなわち女性の労働参加と処遇の平等化にあるのは明らかです。
また、外国人の労働参加に関しては、すべての職種・職場の労働生産性が高いとするには無理があります。言うほど簡単に政策を進めることは難しいでしょう。
次に、よく引き合いに出されるのですが、「女性の人材活用が進んでいる企業・職場ほど労働生産性が高い」とされています。
これを、ストレートに信頼するのではなく、むしろ労働生産性が高い企業・職場が女性活用を積極的に進めてきている。こう私は推察します。

なお、ここで分析に用いたデータ類等を挙げています。
「第二次産業比率」「公的教育支出」「産休育支出」「保育サービス支出」「移民人口比率」などです。
それぞれ「女性労働力率」に与えた影響を、同様<一階階差GMM推定>法を用いて統計的に検証した、としています。

先述した循環論法に、それぞれの課題とプロセスで用いた、多種多様な統計分析データ。
こんなにたくさん利用すればするほど、それぞれ個々のデータとその取り組みが、結果にもたらす影響度は、どんどん薄められていおくのではないか。
単純に、そう思うのですが、どうでしょうか。

次に、諸提案の中で基本とすべき<保育サービス>拡充による子育て支援政策と統計データを巡る提起・提案を見ることにします。
少子化対策と子どもの貧困問題、は第3回で。
財政健全化と直結する増税問題、については、第4回で扱います。

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