今回は、<少子化対策>と<子どもの貧困問題>の視点からの子育て支援政策について考えます。
後述の<『子育て支援が日本を救う』構成>の第6章と第8章を参考にして、概括します。

はじめに、「労働生産性の成長」対策としての「出生率を高める」対策にどのように取り組むか、統計分析により検討するとします。この時、「出生率の上昇」が財政健全化をもたらすという背景を示します。
これを受けて仮説・検証と進める前に、「出生率」の先行研究における課題について事前に説明します。

以下がその概要です。
・女性労働参加と出産意思決定との関係を分析したものが多数派であり、政策が出産に与える効果を分析した研究は少ない。
・その研究領域おいても、特定国における個人レベルデータの分析は多いが、国際比較データによる分析は少ない。
そのために具体的な研究分析例の紹介に4頁ほど割いています。
こうした実情を前提としていること。そのため、正直、<少子化対策>への関心は、柴田氏には薄いのではと感じたのですが、どうでしょうか。

出生率向上に関する仮説・検証まとめ

本書のルーティンである、<仮説><結果の検証>という手順内容を簡潔にまとめてみました。

・仮説①<女性の労働参加(女性労働力率)>と検証:「女性労働力率が上がると、翌年の出生率が下がる。」
・仮説②<離婚(離婚率)>と検証:「離婚率が上がると、翌年の出生率が下がる。」

・仮説③<移民の受け入れ(移民人口比率)>と検証: 「一般的には、移民人口比率が増えると、翌年の出生率が上がる。」
しかし、日本においては、その上昇は見られないことは、ケース数自体の少なさの限界と見ることもできる。

・仮説④<公教育(公的教育支出)>と検証: 「公的教育支出が増えると、翌年の出生率が上がる、ということは非優位」
但し、1年後という短期的効果についてのことであり、長期視点での統計及び評価に及んではいないことから、意味のある仮説・検証とは思えない。

・仮説⑤<子育て支援(児童手当・産休育休・保育サービス:子育て支援支出)>と検証
 「児童手当支出と産休育休支出が増えると、翌年の出生率が上がる傾向は見られないが、保育サービス支出が増えると、翌年の出生率が上がる。」
しかし、この場合の手当支出額の多少、産休・育休の日数と所得補償条件等について種々想定してないことを確認しておく必要がある。
即ち、仮説・検証のレベル、条件の設定自体に問題があるとすべきだろう。

・仮説⑥<その他の社会保障(医療、住宅扶助:医療支出・住宅補助扶助)>と検証:「医療支出や住宅補助支出の増加があっても翌年の出生率向上にはつながらない。」
これも、1年スパンのみで結論を出すことには疑問があります。出生とのダイレクトな繋がりを追いかけ続けることの意味・意義にさほどこだわる必要はないと考えます

・仮説⑦<その他の社会経済状況(経済水準、失業率、労働時間、結婚率:経済水準、失業率、労働時間、新規結婚率)>:「一人当たりGDP、失業率が上がり、労働時間が長くなると出生率が下がる。新規結婚率が上がると出生率が上がる。という傾向はみられなかった。

そこで用いたデータも、この<仮説・検証>項目内にメモしてあります。
すべて、包括的データであり、それらの政策における個々の明細や構成、配分などは示されていません。

少子化対策への関心度の低さ

以上に対して、随分機械的で無機的な仮説検証作業とその結果、という印象を抱きます。
なぜなら、柴田氏自身が、出生数の減少・少子化対策を子育て支援の枠内に位置付けてはいないのでは、と思わせられるからです。

例えば、非婚化・晩婚化がもたらす出生率・出生数の減少は当然のことと推察します。
そこで、結婚したくても現状と将来の経済的不安から結婚しない、できない事情、子どもを持ちたくても、同様持たない、持てない夫婦という極めて一般的な事情・状況・環境等について、本書で取り上げることがまったくなかった。そこに、柴田氏の取り組みの特徴が表れています。
統計データがないから、とされればそれまでですが。
もう一つの推察は、先述のように、子育て支援政策を経済学の対象としての本書であること。その必然でしょう。

出生率向上政策に関する仮説・検証を踏まえての結論

では、一応本書の筆者の<結論>を以下に示しておきます。

先進諸国においての「出生率引き上げ」には「保育サービスの拡充」と「移民の受け入れ」対策が有効と考えられる。
しかし、日本では後者は有効ではなかった。
日本の労働環境と子育て環境は、もともと出生意欲が高い移民にとってもそれが困難であり、むしろ、労働移民の受け入れは、「出生率引き上げ」のためではなく、「労働人口を増やすため」「職場における人材の多様性を高めるため」「人道的な意味で難民を受け入れるため」に行われることが検討されるべきだろう。

なにやら、「移民」を「女性」と読み替えても支障ない整理・表現のように、いまふと感じてしまいました。
同時に、社会学者、社会保障を考える人らしからぬ、無意識の差別感覚がそこに潜んでいるかのような感覚も。

子育て支援政策は、経済的アプローチに拠る時に必然的に、労働人口増加を目的・目標とします。
しかし、なぜか、この「出生率向上」に関する作業において、「労働人口」の増加と結びつくことに、筆者がほとんど触れなかったことが不思議でなりません。
それだけ筆者には、「子育て支援」と「少子化対策」を直接結びつけて政策提案する気持ちが希薄だった。
また繰り返して言ってしまいました。

次に、子どもの貧困政策の章です。

こどもの相対的貧困率に関する仮説・検証まとめ

同様に、仮説・検証作業の簡潔な整理を以下に。
・仮説①<児童手当>と検証:児童手当支出が増えると、子どもの相対的貧困率が下がる。
・仮説②<保育サービス>と検証:「保育サービス支出」が増えると、子どもの相対的貧困率が下がる。

・仮説③<共働き>と検証:女性労働力率が増えると、子どもの相対的貧困率が下がる。
・仮説④<ワークシェアリング>と検証:ワークシェアリング支出が増えると、子どもの相対的貧困率が下がる。
 但し、サンプルサイズが小さいため、これをもって有意とすることには不安も残る、としています。

・仮説⑤<失業給付・住宅補助・生活保護>と検証:失業給付・住宅補助・生活保護の支出の増加による、子どもの相対的貧困率の低下については、失業給付のみが有意。
・仮説⑥<離婚率>と検証:離婚率の上昇による子どもの相対的貧困率の上昇が有意。

子どもの貧困政策に関する仮説・検証を踏まえての結論

同様に、本章での仮説・検証作業結果のまとめを紹介します。

子どもの貧困を減らすには、「児童手当」「保育サービス」「共働き」「ワークシェアリング」「失業給付」「離婚予防」が有効と考えられる。
なお、ほとんどのモデルで決定係数が非有意だったが、より大きなサンプルサイズを得られた場合には有意になる可能性がある。

格別統計データを分析しなくても、そりゃそうだよね、という受け止め方、考え方、感じ方ができる。
これが正直なところ。
しかし、それらが、どんな子どもの貧困状態・貧困度に対して、どの程度有効か、改善・解消に寄与できるか。これらについては示せていない。
できるはずもないですが。

この章の後、<第9章 政策効果の予測値>において、そこまでの各章における仮説・検証結果を勘案しての効果予測が示されます。
そこで、日本の子どもの貧困度を、OECD加盟各国中の低位の順位と共に確認し、効果予測してみる。たとえそうしたも、個々の世帯、子ども個人個人が、果たして現実としてどんな効果を享受できるのか。
効果測定の基準としての、「貧困」の捉え方、基準・尺度の数値化が、OECDが示すものが真の共通のものとできるのか。
それよりも、個々の政策の制度化された内容が示されることが、まず求められる。
やはりここで確認しておきたいことです。

初めに「社会システム」あり

そこで示されるべき制度内容は、貧困対策としてのみならず、「子育て」支援政策を広くカバーする社会保障制度、社会システムと位置付けられるもの。言うまでもないことです。
初めに経済ありきではなく、初めに社会システムありきの取り組みであることも再確認が必要です。

なお、この章の中で最初の仮説に据えられた「児童手当」に関して、この「結論」内で、「保育サービス」との比較を用いながら述べられた部分があります。
実は、私が、ある意味で、本書の中で最も重要と評価している内容の部分です。

最終的に、柴田論は、私が提起提案する、日本独自のベーシックインカム「ベーシック・ペンション生活基礎年金論」に繋がるもの。そう位置付けての本シリーズの取り組みです。
本稿のテーマである「少子化対策」と「子どもの貧困対策」。その必然の帰結としての「ベーシック・ペンション」への展開。その専門サイト http://basicpension.jp で、縷々行っています。

次回は、財政健全化と直結する増税問題がテーマになります。

1 2 3

4

5 6 7

関連記事

特集記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP
CLOSE