今回最終回は、多様な展開になりますが、総括として位置付けます。

子育て政策の効果を前提としたために、経済政策としての子育て支援論になってしまった感が否めない本書。
具体的な子育て政策課題については、『子育て支援と経済成長』の<第5章 子育て支援の政策効果>に関連する記述を読み取ることができます。
以下が、その構成です。

結局、子育て支援策の軸になるのは、保育施設の拡充と、不足する保育職人材の確保、すなわち保育の量と質を満たすための保育サービスの拡充です。
そこに、子育て支援の産休育休制度、雇用保険等の所得保障制度が並行して加えられ、不可欠な制度になりす。

第5章 子育て支援の政策効果
 ・結局、待機児童はどれくらいいるのか
 ・子どもを持ったお母さんは一生パート?
 ・保育士が集まらない
 ・待機児童問題解消にはいくら必要か
 ・公立の認可保育所は縮小傾向
 ・子育て支援でどのくらい経済成長するのか
 ・待機児童解消による政策効果
 ・長時間労働が引き起こす「保育の質」の低下
 ・フランス革命と出生率
 ・保育ママ以外の要因は?
 ・フランスから学べること
 ・保育所で解決したスウェーデン
 ・「マツコ案」で保育・教育の無償化を試算してみた

この構成から読み取ることができるのは、不足する保育の量をカバーするのは不足する保育施設であり、質の軸は不足する保育士の数を満たすことということ。
もちろん、施設の質、保育職の人数という量、両面があることは言うまでもないことです。

保育サービス政策拡充の目的・手段としての待機児童問題解消政策

ただ両方を満たす目的として明確なのは、潜在・顕在両面での待機児童問題解消になり、それは子育て支援の軸となる手段にもなること。

80万人の潜在的待機児童解消のために必要とする1.4兆円の保育拡充には0.7兆円の保育サービス拡充が含まれます。これにより、新たに40万人の待機児童が認可保育所に入ることが可能に。
1.4兆円の残りの0.7兆円は、民間保育士の給与引き上げに充当するもの。
公立認可保育所の保育士は地方公務員なので、その地方の事業所規模50人以上の大企業と同レベルの給与が支払われるため問題はない。
ならば、元来、公立認可保育所を新・増設すればよいのですが、政府方針は民営化であり、こうした給与補助が必要になるわけです。
その方針について、柴田氏は素直に?受け止めて、0.7兆円の補助で済まそうというわけです。

保育サービスの本質としての公的事業性

本来、こうした保育事業は、小中校義務教育と同列におくべきです。即ち公立・公営保育事業に転換(原点回帰)すべきです。
民営化で賃金格差を自動的に生み出し、政府補填に依存し、常態化している事自体が異常なこと。そういう指摘がないのが残念でなりません。

次に、いわゆる高福祉高負担や低福祉低負担など、国家としての社会保障制度の違いと問題を明らかにすることが多々あります。
その関連で、公助・共助・自助などの問題と結びつくわけです。
この視点で、欧米社会における基本的な社会福祉制度の方針は、この両面とその折衷とを個々に持ち、併用されている。これも新書の方で展開しています。
詳細は省略しますが、以下の構成の<第4章>の一部でその流れ、概要を類推して頂ければと思います。

第4章 社会保障の歴史から見るこれからの日本
 ・高福祉国家・北欧とルター派の関係
 ・宗教改革が高福祉国家を生んだ
 ・17世紀に導入された救貧税
 ・カルヴァン派がつくった低福祉国家・アメリカ
 ・投資によって偶然儲かったら
 ・キリスト教の歴史と社会保障

なお、これらと結びついている基本認識については、 http://basicpension.jp の記事で既に述べてきています。確認頂ければと思います。
(参考)
イギリス救貧法の歴史・背景、概要とベーシックインカム:貧困対策としてのベーシックインカムを考えるヒントとして(2021/1/26)

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